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仙台家庭裁判所 昭和31年(家イ)1号 審判

国籍

アメリカ

住所

宮城県仙台市○○町○丁目○番地

申立人

キヤサリン・ピカツト(仮名)

国籍

アメリカ

住所

申立人に同じ

相手方

ウイリアム・ピカツト(仮名)

主文

一、申立人と相手方は本日離婚する。

二、相手方は申立人に対し、帰国旅費として、昭和三十一年一月三十日限り金拾八万円(米貨五百ドル)および慰藉料として同三十一年二月末日より同三十二年一月末日迄(十二回)毎月末日限一ケ月一万八千円(米貨五十ドル)を各支払え。

三、申立人のその余の請求は棄却する。

理由

申立人の調停申立の要旨は、申立人と相手方は、一九四九年二月○日アメリカ合衆国ニユーヨーク市に於て婚姻したが未だ両人間に子はない。そして相手方は一九五五年五月○○日米国軍人として日本国に駐留し、申立人は一九五五年十二月○日来日して肩書地に居住している。相手方は婚姻後貞操の義務を護らず、現在情婦と不貞行為を継続している。依て申立人は妻として同棲に堪えない侮辱を受けているから直に相手方と離婚し且申立人の帰米旅費及慰藉料として金千数百ドルの支払を求めるため、本件申立におよんだというにある。

相手方は申立人陳述の通り事実を認め離婚に同意するが経済上余裕がないので慰藉料は支払が出来ぬ旨述べた。

直に調停を試みた処、申立人と相手方は離婚することに合意し、相手方は申立人の帰国旅費支払は承諾したが、結局慰藉料については意見が一致せず、調停は不成立となつた。然し申立人及相手方共に裁判所に於て審判により決定されることは苦情がない旨陳述した。

依て当裁判所は職権を以て審案するに、当事者が本国に於て婚姻し現に肩書地に居住していること、又婚姻後相手方が情婦と不貞行為を継続し現在に於ても貞操の義務を履行しないこと、相手方が米国軍人(曹長)として軍務に従事していること、又申立人は離婚によつて帰国旅費を受領の上は速かに便船によつて帰米することになつている事情は当事者間に争いがない。

そこで調停及審判に当つて聴取した一切の事情及相手方の収入状態を参酌し当事者双方のため衝平に考慮すると、此際離婚し申立人は帰国することが双方のために幸福であることが推測し得るから、当事者の離婚原因が相手方たる夫の本国法により適法であるか否かを考慮するにロードアイランド州法中離婚原因に関する法規によれば夫婦間の一方の離婚中の不貞行為は正当の離婚原因であり、又日本国民法第百七十条第一項第一号に於て「配偶者に不貞行為があつたとき」は正当の離婚原因に該当するので、本件離婚は適法である。

されば申立人及相手方は本日離婚し、相手方は申立人に対し、主文第二項記載の旅費及慰藉料を支払うことを相当と判定しその余の請求は棄却する。

依てアメリカ合衆国ロードアイランド州法中離婚に干する法律及び目本国民法第七百七十条第一項第一号法例第十六条同家事審判法第二十四に依り主文のとおり審判する。

(家事審判官 三森武雄)

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